研究室訪問(内海先生)

企業・会社の在り方

商法 内海 淳一 准教授

法学部 准教授 内海 淳一
Junichi Utsumi

 現代のように、目まぐるしい変化と改革の社会の中において、企業をめぐる環境についても例外ではありません。とくに、会社の基本的ルールを定めた商法は、ここ数年頻繁に改正が行われて新たな会社法の構築がなされています。さらに、現実の経済活動は、ボーダーレス・グローバル化により、国際的に通用するルール作りの必要性にも迫られています。このように、経済活動の担い手としての企業、とりわけ株式会社は重要な存在となっていることは言うまでもありません。

 歴史的にみると、現在の株式会社の起源は、1602年に設立されたオランダ東インド会社であるといわれています。株式会社といえるためには、株主の権利である株式を自由に譲渡できること(株式譲渡自由の原則)、もし会社が倒産した場合でも、出資額を超えて株主は責任が負わされないこと(株主有限責任の原則)、という現在の条件に近いものを備えていたからです。しかし、当時は重商主義にもとづく植民地貿易だけでなく、絶対主義王政下での国家の代行機関として、政治的・軍事的な植民地経営を行っていたために公的色彩が強く、会社設立に関しては、現在多くの国で認められているような準則主義(法定要件に従って組織を備えれば成立する方法)ではなく、国王の特許状によってのみ設立が認められていました。一方、イギリスは、オランダよりも2年早く1600年に東インド会社が設立されましたが、株主の有限責任が確立されたのは1662年でした。

 その後、18世紀後半にイギリスで産業革命が起こりヨーロッパ全体に普及して、大量生産・大量消費の国家規模での経済社会(資本主義体制)に対応するためのルールとして、近代的な商事法立法の必要性が生じてきました。さらに、1789年のフランス革命によって封建制度が崩壊し、これまでの商人という特権階級が廃止され、すべての人が平等に取り扱われる近代市民法思想の影響のもとに、ナポレオンⅠ世が、1807年、世界初の一般株式会社法を含む近代的商事法として、フランス商法典を制定しました。

 日本の場合は、フランス商法典制定から92年後の1899年(明治32年)に現行商法典が成立し、それから多くの法律改正作業を積み重ねて、現在も大きく変わりつつあります。すなわち、経済状況の変化とともに会社も改革・成長していくのです。

 近年、企業の不祥事発覚が頻発し、その経営の在り方を根本的に見直す動きが「コーポレート・ガバナンス」と称して法律問題に限らず活発化しています。大和銀行株主代表訴訟事件判決(大阪地判平成12年9月20日)では、取締役個人(11人)に対し総額7億5000万ドル(約830億円)の莫大な損害賠償責任が認められ、社会的にも注目を浴びました。実際に支払える金額とは到底思えない内容ですが、重要なことはそれだけ経営担当者の責任は重いということです。会社法は、あくまで枠組みを構築するだけで、最低限度のルールです。最終的には、その中身となる人間にかかってきます。実際に企業に関わる人間はもちろんのこと、会社法研究者なども含めて知恵を結集させて実のある企業・会社の在り方を創造していきたいと思っています。