「JAPANESE ONLY」は禁止できる?――スタジアムで考える表現の自由

松山大学法学部教授 井上 一洋

 サッカーや野球などのスポーツ観戦では、観客が横断幕を掲げたり、チャントやコールを行ったりして、選手やチームを応援する光景がよく見られます。こうした応援も自分の考えや気持ちを外部に伝えるという意味では「表現」の一つです。では、観客が差別的な内容を含む横断幕を掲げた場合、それを禁止することはできるのでしょうか。「表現の自由」が保障されているのだから、どのような横断幕を掲げても自由なのでしょうか。

 この問題を考える上で興味深いのが、2014年にサッカーの試合で起きた「JAPANESE ONLY」横断幕事件です。あるサッカーチームの試合で、観客席の入口付近に「JAPANESE ONLY」と書かれた横断幕が掲げられました。Jリーグは、この横断幕を差別的な内容のものと判断し、当該サッカーチームに対して、けん責と無観客試合という重い制裁を科しました。ここで、「表現の自由があるのに、なぜ横断幕を禁止できるのだろう」と疑問に思う人もいるかもしれません。

 日本国憲法21条は表現の自由を保障しています。しかし、表現の自由が保障されているからといって、いつでも、どこでも、どのような方法でも自由に表現できるわけではありません。そして、この問題を法的に考える際に重要なのが、「何を表現したのか」だけでなく、「誰がその表現を規制したのか」という視点です。「JAPANESE ONLY」横断幕事件では、国が法によってこの表現を禁止し、横断幕を掲げた観客を処罰したわけではありません。対応したのはJリーグやクラブでした。国が表現を直接規制する場合とは異なり、憲法21条がそのまま直接適用される場面ではありません。スタジアムで試合を観戦する場合、観客はチケットを購入すれば何をしてもよいわけではなく、リーグやクラブが定める観戦ルールに従うことになります。そのため、差別的な横断幕などの表現について、リーグやクラブが一定のルールを設けることができます。

 このように、政府が法によって表現を禁止する場合と、スポーツ団体や施設の管理者が観戦ルールに基づいて表現を規制する場合とでは、法的な問題が異なります。この点はアメリカでも重要です。合衆国憲法修正1条は表現の自由を保障しており、政府が、ある表現について、「不快である」、「侮辱的である」という理由だけで禁止することには厳しい制約があります。しかし、憲法上の表現の自由が直接問題となるのは、基本的には政府による表現の規制です。そのため、民間企業やスポーツクラブが管理するスタジアムでは、クラブやリーグが観戦ルールに基づいて差別的な横断幕などを禁止しても、それだけで直ちに憲法上の表現の自由の問題になるわけではありません。一方、地方自治体などが所有・管理する公的な施設の場合には、政府による表現の規制として憲法上の問題が生じる可能性があります。その場合には、誰が施設を管理しているのか、その場所がどのような目的で利用されているのか、どのような表現活動が認められているのかなどを検討する必要があります。

 このように、表現の自由について考えるとき、「この表現は許されるのか、許されないのか」という問いだけでは十分ではありません。「誰が規制するのか」、「どこで表現したのか」、「どのようなルールや権限に基づいて規制するのか」といった問題を一つ一つ分けて考える必要があります。一見すると単純に思える出来事でも、視点を変えると、そこにはさまざまな法的な問題が隠れています。スポーツ観戦という身近な場面からも、憲法や表現の自由について考えることができるのです。

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