パラリーガルという仕事

松山大学法学部教授 村田毅之

 最近、ゼミの2年生からパラリーガルに関する質問がありました。パラリーガル(paralegal)とは、「弁護士の監督の下で法律業務を遂行する者」を意味し、資格を有しないが弁護士に準じた仕事に従事する者を指して用いられています。欧米の中規模以上の法律事務所では一般的な存在であり、日本でも、都会の大規模な法律事務所を中心に一般的な存在となりつつあるようです。1980(昭和55)年に大学を卒業し、2年間の東京都勤務(小学校事務)を経て大学院修士課程を修了して1985(昭和60)年に博士課程に入るまでの1年間は、パラリーガルとして、渉外弁護士事務所に勤めました。

 従事する仕事は、使用する弁護士、事務所により多様ですが、その名に値するのは、「通常は弁護士自ら行う業務であるが特に資格を必要とはしない高レベルの業務」、たとえば、①法律のリサーチ、②依頼案件の調査分析、③訴訟書類準備、④契約書等の起案(ドラフト)、⑤翻訳、⑥会社設立等のための書類作成、⑦文献調査、⑧資料収集などが典型的です。

 規模の大きな弁護士事務所や渉外弁護士事務所では、業務の効率化のために、秘書の業務とは分離して、パラリーガルには独自の仕事に専念させることが多いようです。私が勤めたのは、小島秀樹弁護士(2021年逝去)が創設して間もない小島国際法律事務所で、小島弁護士の外は、女性秘書1名と女性アルバイト2名だけでした。その後、パラリーガルは増えて、私が辞める頃には5~6名になっていました。大学院生や司法試験受験生、英検1級合格の学部生など、多才な人材が集まっており、その中には、後に弁護士となり、現在では多くの弁護士を擁するローファームとなった小島国際法律事務所のパートナーとなっている方もいました。

 破産管財や外国の医療法の翻訳など多様な案件を担当しましたが、とくに興味深かったのは、日・米・加のジョイント・ベンチャー(合弁会社)の日本での設立手続でした。まず、株式会社設立のための書類を整えて、アメリカの会社の担当者に送り、必要事項を記入後、カナダの会社の担当者に転送してもらい、カナダから日本に返送してもらいました。書類は日本語なので、「ここに氏名を書け、ここにイニシャルを書け」といった指示を英語で鉛筆書きして送りました。「世界中どこでも24時間以内に届ける」との謳い文句で「クーリエ(国際宅急便)・サービス」を展開するDHLを使い、厚さ4センチほどのA4判の書類をアメリカに送り、2万4千円ほどの料金でした。東京から発出してアメリカ、カナダを回り、10日ほどで私の手元に戻り、指示通り、名前やイニシャルが正しく記入されているのを確認して非常に安堵したことを記憶しています。

 少し前、皇室関係の話題で、「パラリーガル」が注目を浴びました。アメリカでは1980~90年代に最も増加した職種の一つで、その主な理由は、①弁護士がより専門性が高く複雑な業務に集中できることにより効率性が高まり、顧客への請求金額を抑えることができるという経済性や、②アメリカでの法務サービス需要の高まりにあるとされています。

 日本では、弁護士自体の数も急激に増大し、相応しい収入を確保できない弁護士の存在も明らかになっており、パラリーガルという仕事が確立されていくかどうかは不確かです。懸念されるのは、長年勤めても、並みの会社が提供するような年齢に見合った賃金を支払う事務所は稀ではないかということであり、また、弁護士が1名の事務所では、弁護士の死去がすぐに失業につながるということです。自信を持ってお勧めできるのは、法曹を目指そうと悩んでいる学生に対して、まずは、なるべくは学部生や大学院生のうちに、パラリーガルとして働いて弁護士という職業の実態を見た上で決断したらどうですか、ということです。

以上

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