Q.自動車を運転していたところ・・・

04car

Question

 自動車を運転していたところ、ブレーキをかけ遅れて、信号で止まっている前の車に追突してしまいました。前の車の後ろのバンパーがちょっとへこみました。
どうしたらいいでしょうか?

Answer

 まずは慌てずに状況を確認して、警察に連絡しましょう。

Comment

 事故の場合、運転者はどのような責任を負わなければならないのでしょうか。これを通じて、法的なものの考えを幾つか紹介していきましょう。
自動車(四輪車)の全国登録台数はおよそ7,500万台といわれ、成人年齢に達した国民1人に1台、といっても大げさではありません。その反面、交通事故の件数も多く、100万件に迫った一時期程ではないにせよ、年間あたり80万件前後で推移しています。決して他人事ではありません。
この事例は、いわゆる「物損事故」といわれるものです。実は事故の9割はこれに当てはまるとか。もっとも、物損事故も例のように軽いものから、車両の全損やら家屋の破壊まで様々ですが。
 まず大事なのは慌てない事です。アメリカやアラブ社会などで言われるように、「謝罪は落ち度を認めたことになる」という慣習は日本にはありません。多少は謝る事も必要かもしれませんね。
 法的な問題は別としても、まず行うべきとされることは、
・けが人がいないかどうか、確認します。これは後で述べる人身事故と物損事故とを分ける境になりますので、最優先です。
・周囲の安全を確保します。車両の移動などによって、二次事故を避けることが必要です。これを怠ってさらに別の事故を誘発したりすることがあり、この場合、その事故の責任まで問われることがあります。
・お互いの個人情報・連絡先を交換します。氏名、住所、連絡先(電話)、自動車のナンバー、任意保険の保険証番号など。運転免許証と車検証で確認するのが確実です。「誤魔化さない」という保証ですから、これをいい加減にする、あるいはウソが混じっていたりすると後でトラブルになる可能性大です。
・警察に連絡し、実況見分をしてもらいます。通常、警察官が来るまでに多少の時間がかかるので、これを避けて自分たちだけでの交渉を持ちかけられる事があります。これは絶対に避けてください。後で人身事故とわかったり、追加の請求を受けたり等、トラブルが多く報告されています。
・保険会社に連絡します。保険請求などの準備で必要ですし、ここに書かれている程度のアドバイズ位はしてくれることが多いようです。なお、先に述べた警察への連絡は、保険請求には必須です。なぜなら、保険会社は「事故証明」がないと原則として保険金を支払ってくれませんし、「事故証明」は、実況見分の結果発行されるものだからです。
 このうち、警察への連絡は、道路交通法に「交通事故の場合の措置」として記されています。怠ったときの罰則もあります。

<参考> 道路交通法第72条第1項
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(中略)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官か現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(中略)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
同法第第119条 次の各号のいずれかに該当する者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
(中略)
10.第72条第1項後段に規定する報告をしなかつた者

 さて、その場ですることを行ったとして、ではその後は?
 まずこの例の場合、警察への事故連絡さえきちんとしてさえいれば、刑事責任を問われることはありません。刑法をはじめとする諸規定に、うっかりミス(これを「過失」といいます)による物損を処罰する規定が無いからです。規定が無いものを、勝手に処罰することは許されない、という考え方を、「罪刑法定主義」といい、近代刑法の原則となっています。言葉を換えると、この程度でわざわざ「処罰」をするという威嚇をしなくてもいい、ということになります。これをもとに警察や裁判所へ呼び出されて裁判を受けたり、その結果として罰金を払うことも、あるいは刑務所へ行くこともないわけです。
 ですが、他の人の車、すなわち財産に(うっかりとはいえ)傷を付けたのですから、「賠償」をしなければなりません。これは、民法の規定によります。刑罰の一種である罰金とは異なるものです。

<参考> 民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 この例でいうなら、「うっかり」つまり過失により、「車の価値」、つまり他人の法律上保護される利益を侵害してしまったのだから、損害を賠償する(つぐなう)責任がある、ということです。
 具体的には、修理費(交換部品代や修理工賃)、車両の評価損(事故車ということで中古価格が下がるため、その差額)、代車費用(他の車を借りる費用)か休業補償(業務に使う車の場合、業務に使えなかった損害額)といったものです。自動車保険に入っていれば、その内容に応じて、保険会社が代わりに払ってくれますが、無保険や保険対象外の損害の場合は自腹を切る必要があるでしょう。
 なお、この民事上の責任は、被害者が行使しない限り発生しません。民法は「請求するかしないかは、債権者(この場合、被害者)任せ」という考え方をとっているので、被害者が「払わなくてもいい」といってくれれば払わずにすむのです。
 最後に、「行政処分」を受ける可能性があります。交通違反、事故などを起こすと、違反点数が加算されていく、というシステムです。本題からちょっと外れるのですが、この違反点数は「減点」ではなく「加算」されていきます。一定期間内に一定の点数になると、それに応じた処分がされることになります(例えば、過去に運転免許停止――いわゆる免停を受けたことが無い運転者だと、原則3年間の累計6点で免許停止、15点で免許取り消しです)。物損事故では事故の状況によって、交通違反の基礎点数に加えて、付加点数がプラスされることがあります。
この例の場合は安全運転義務違反(2点)だけですから、他に違反などが無い限り行政処分にはならないでしょう。場合によっては違反点数がつかないことも考えられます。ただし、車ではなくて建物などに被害を及ぼした場合は2点か3点の加算になりますし、当て逃げ――報告義務違反だとさらに5点加算で、これまで無事故無違反の運転者でも免許停止になるでしょうね。
 この行政処分は、「事故や違反など、逸脱した運転行動を繰り返すものを道路から排除する」という趣旨です。ですから、一度目ではお咎めなし、あるいは軽い処分、二度目以降は比較的重い処分、という傾向があります。

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