あなたはわざとやりましたね(故意の認定)(下)

松山大学法学部教授 明照 博章

 繰り返しになるが、もう一度、事例を説明する。
 Bは、①会社からの帰り道、自分のバックを奪われたこと、②その際、治療に3か月を要した怪我をしたこと(医師の診断書あり)について、警察署に被害届を出した。警察の捜査等によって、犯行現場付近で、Aと被害者Bがもみ合っているところを見たという情報提供を複数の者から得、その後、捜索令状をとり、Aの自宅を捜索したところ、Aの部屋からBのバックが見つかった。

 この場合、Aは、初めからBのバッグを奪う意思で暴行を行ったので、A(強盗犯)の暴行の結果、Bが負傷したといえるから、強盗致傷罪となるのか、それとも、AがBを負傷させた(傷害罪)上に、Bのバッグを盗んだ(窃盗罪)ことになるのかが問題となる。

 検察官は、Aを強盗致傷罪で起訴した。

 被告人Aは、①暴行の時点では、単に暴行を加える意思を有していただけであり、Bのバッグを持ち去る意思はなかった。②その後、BがAの暴行よって動けない状況になった後、たまたまBがバッグをもっていることに気づいたので、それを持ち去ったとし、強盗致傷罪は成立しない(傷害罪と窃盗罪になる)と主張した。

 ここでは、Aが、Bのバッグを持ち去る過程で、Bのバッグを奪う目的で「わざと」Bに暴力を行ったのかが問題となる。暴行の時点で「バッグを奪う意思」があれば、「暴行に基づき『わざと』Bのバッグを奪った」と評価「できる」。しかし、暴行の時点で「バッグを奪う意思」がなければ、「暴行に基づき『わざと』Bのバッグを奪った」と評価「できない」。

 故意(主観的要件)を認定する場合、Aの自供がなければならないとすると、上の事例では、Aには強盗致傷罪が成立し得ない。Aは、暴行の時点で、Bのバッグを奪うつもりはなかったと主張しているからである。しかし、それは、実際上不都合があまりにも大きくなるであろう。そこで、実際には、客観的事情から故意を推認している。
 上の事例において、さらに「被告人Aが被害者Bからバッグを奪うために、Bを20m引きずった」という事実が証明されたとする。そうすると、「経験則上」Aが「暴行に基づき『わざと』Bのバッグを奪った」と評価することができるといえる。
 このように、裁判では「経験則」を使った「推認」を経由して、故意が認定される場合がしばしばである。

 刑法:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html