動物愛護法

松山大学法学部教授 白木 俊一

 動物の専門学校に勤務していましたので、動物について考える機会が多くありました。

 近年、「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)が大幅に改正され、動物業界では大きな話題となりました。そもそもこの法律は1973年に「動物の保護及び管理に関する法律」として議員立法として成立したもので、1999年の最初の法改正で名称が「保護」から「愛護」に変更された後、2005年、2012年にも改正され、今回が4度目の改正です。1973年に「動物の保護及び管理に関する法律」が制定される以前は、動物の保護(愛護)と管理を目的とした総合的な法律はなく、長きにわたり日本は動物愛護に関して後進国とされてきました。

 しかしながら、日本の動物、特に犬に関する歴史をたどってみると、縄文人が狩猟に使役した犬を大切に埋葬した痕跡が多くの遺跡から出土していることをはじめ、古代や中世においても「殺生禁断」として動物の殺生を禁ずる命令が何度も出されています。そして、江戸時代天保年間には、暁鐘成なる人物により犬の飼育本『犬狗養畜伝』が出版されているのです。『犬狗養畜伝』の冒頭部には、「・・・世人狗を養ふに、慈愛あらずんバ人道にあらず。夫、生るを愛し、死を悼むハ仁の道なり。則、これを慈悲と云。(中略)斯有バ此世に生を受るもの、禽獣に至るまで皆兄弟なり。憐まずんバあるべからず。況や家に養て朝夕狎て随者に於てをや。予平生に生るを愛し、死を悼むがゆゑに、ここに犬狗を養の心得を著し彼を助くるの便とす。」と現代にもつながるような動物愛護精神がストレートに述べられています。

 そして何といっても注目すべきは徳川綱吉による「生類憐みの令」と称される一連の法令の存在です。「生類憐みの令」については、研究者によってその評価が大きく分かれるところですが、評価によっては、日本は動物愛護に関しての後進国ではなくむしろ先進国とみることもできると思います。例えば、犬とその飼い主の登録を義務づけたことは、アメリカのニューヨーク州議会で犬の登録を義務づける法律が出されたのが1894年であることを考えると、日本はアメリカよりも実に200年以上も前に犬の登録の必要性を打ち出していたことになります。また、中野に大規模な犬小屋を設置したことは、動物愛護の精神に基づいた日本初のシェルターであり、法令に則り国家が予算をつけて実行している点を高く評価する研究者もいます。

 犬と人間の在り方は、長い歴史の中で議論されてきたテーマの一つかもしれません。

 数年前に愛犬を亡くしました。犬の歴史を考えていたら、犬が飼いたくてたまらなくなりました。

【参考文献】

日本農業全書60「犬狗畜養伝」暁鐘成 農山漁村文化協会 1996年
『江戸の実用書』近衛典子他 ぺりかん社 2023年
『ケンペルと徳川綱吉』B・M・ボーダー=ベイリー 中公新書 1994年
『一冊でわかる江戸時代』大石学 河出書房新社 2021年

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