昨今、世間を騒がす企業ニュースが数多く耳に飛び込んでくる。この状況は、会社法学的にみれば、話題に事欠かないといえる。
まず、2011年9月に大王製紙の会長(当時)によるギャンブル資金の子会社からの不正借入れ事件、同年10月にはオリンパスの長年にわたる損失隠し事件が発覚した。とくにオリンパス事件を契機に、社外取締役の義務化が会社法改正の議論として持ち上がった。会社の不祥事が起きる度にその監視・監督強化策について、これを会社部外者に期待する声が高まるが、単に外部の有識者というだけではその実効性は乏しい。なぜなら、オリンパスにも社外取締役が実際に存在していたからである。結局、2014年の改正会社法では、一定の会社(大規模上場会社など)において社外取締役の義務化は実現しなかったが、社外取締役を置かない場合は、その理由(置くことが相当でない)を開示しなければならないという事実上強制する内容の立法で決着した。
また去年(2015年)は、企業によるデータ改ざん・偽装等の事件が多発した。たとえば、東洋ゴムによる免震ゴムのデータ(3月)や東芝利益水増し(5月)、旭化成建材のマンション等の杭打ちデータ(10月)、海外では独フォルクスワーゲンの排ガスデータ(9月)の不正操作が発覚した。今年はさらに、三菱自動車の燃費データ(4月)が不正操作されたことで大問題となっている。三菱自動車は、過去2回(2000年・2004年)のリコール隠し事件によって経営危機に陥っており、ようやくその危機から脱した矢先の事件であった。今後、業績悪化や補償・賠償の状況によっては、以前のような三菱グループ全体での支援・救済が困難となるかもしれない。この三菱自動車事件は、単に一企業の問題に留まらず、多くの下請け・孫請けの中小・零細企業へ波及することから、雇用・社会問題に発展するおそれもある。
チョッと変わり種の企業ニュースとしては、2015年2月の大塚家具事件(?)がある。
これは、プライベートな親子喧嘩が、会社の支配権争奪として会社法をその武器に公然と繰り広げられたものである。会社法的には、親子間の事情は考慮されないので、単に株主の多数決により決せられる結果(娘側の勝利)となった。親子などの人間関係については、良好な状態であれば堅苦しく法律的に決めなくても何ら問題を生じないが、これが一旦こじれてしまうと曖昧な事柄は法律上画一的に判断されてしまうこととなる。
このように、企業事件と言っても、結局は企業活動に関わる人間の問題である。倫理・道徳観を含めそれぞれの地位・立場に見合う資質・能力を見極めることの重要さは勿論のこと、それらの行為は会社規模に応じて二重・三重にチェックできる体制も考えるべきではないかと思う。