松山大学法学部准教授 松田龍彦
体感治安の話の続きです。
「何か状況が悪くなった」「良くなった」と感じるときは、どんな時でしょう。
・身の回りの物を無くした/見つけた。
・身の回りで何か揉め事が起こった/解決した。
・直接関係ないが自分の気に入らないことが起きた/気に入ったことが起きた。
・同じく気に入ったことがなくなった/気に入らないことが解消された。
対比でいうとこんなところでしょうか。
身の回りでの揉め事でしたら、話は比較的簡単です。解決されたら気分はいい。されなかったら悪い。しかも解決/未解決は身の回りですからかなりの正確さで判明しています。ここまでが前回のおさらいですね。
ところが、直接関係ないことだと、話がちょっと違ってきます。まず、どうやって知ったか。知人/人づてに聞いた。ニュース等の報道で聞いた。見ず知らずから、要するにSNS絡みで聞いた。こんなところでしょうか。……で、同じ順で「精度」が低くなっていくのです。
知人>報道>SNS の順で。
余談ながら、精度面でSNS>報道と思い込んでいる方は認識を改めるべきだと思いますね。「マスゴミ」などと呼称して、報道機関を信用しない。「自らの好みに合わない」報道内容なら、これはまだ理解できます。一つの誤報があったとして、信用に対する影響は後々まで響きますから。ですが、SNSを信用したり、全て真実を示している、という「思い込み」はどこから来るのでしょうね。SNSって、知人も報道も一緒くたにした2次/3次/高次情報、要するに誤謬と欺瞞の紛れ込み放題の伝言ゲームですから。きちんとソースをたどらないと(なかなかたどれませんが)、ね、、、。
また、同じ順で、「物事が起きた」「解決した」が伝わりますが、特に「解決した」は精度が低いと加速度的に伝わり難くなります。……わかりにくいですか。
SNS>>報道>知人 の順で、
「解決した」≒「良くなった」≒「状況(治安)が良くなった」が伝わり難いのです。要するに、
「良くなった」より「悪くなった」だけが伝わりやすい。SNS中心だと特に。
実例を挙げましょう。株価、物価――昨今では米の値段、あるいはガソリン価格でしょうか――どれでもいいですが、継続的に把握している方、どのくらいいらっしゃいますかね。……「下がった」「悪化した」ニュースは響きますが、その後状況はどう変わりましたかね。「株価上昇」「米価上昇止まる」「ガソリン価格安定」のニュースって、いつどういう形で報道されたか、印象に残ってます? SNSではどうだったのでしょう?
というわけで、体感治安についても「悪くなった」「良くなっていない」という印象ばかりが残るし、そもそもその体感が「おかしいのではないか」ということに気付けないのです。
こういう(直接法律には関わらないけれど)分析をして、「わかりにくい」ことを「何とか理解するように考えてみる」のも、法学部教員や学部生の、よくある話なのです。なぜかって? それが「わかりにくい」法律や制度を理解することにつながるからなのですよ。
……つづく、かな?