負け確定の訴えを起こすなんて? -- ゼミでの学び

松山大学法学部准教授 石橋 英典

 みなさんは次の事件をどのように考えるでしょうか。やや難しい事件かもしれません。

 Aは自転車事故によって骨折してしまい、治療費などを請求するため、Bに対し損害賠償請求の訴えを提起しました。この訴えの前に、Bは、「そもそも私は自転車をもっておらず、事故を起こしたのはCである。」と何度も主張していました。それにもかかわらず、Aは訴えを提起したところ、当然に、Aは裁判に負けてしまいました。
 Bは、裁判前にAが戦うべき相手はCであることを何度も主張したにもかかわらず、自分を相手に訴えを提起したため、弁護士費用の出費や精神的損害を受けたとして、逆に、BからAに対し損害賠償請求の訴えを提起しました。この、BからAへの損害賠償請求は認められるでしょうか。

私のゼミでは、法律問題に関する報告(一つのテーマについて判例や学説を解説する)をメインとしつつ、事例に基づくディベートも行っています。冒頭の問題は昨年行ったディベートのテーマです。ディベートでは、いわばAとBそれぞれの弁護士になって、Bの損害賠償請求が認められるかどうか議論し、討論者以外のゼミ生がジャッジします。

 改めて、みなさんは、この事例をどう考えるでしょうか?
 Aの立場からは、そもそも、最初の裁判(A→Bの損害賠償請求)において、損害賠償請求の相手は、「責任は自分にはない」と主張するのはよくあることであって、Aが訴えを提起すること自体は問題ないはずだ!と主張できそうです。
 他方、Bの立場からは、少し確認すればわかるようなことを確認もせずに、Bに対して訴えを提起するというのは、許されることではないはずだ!と主張できそうです。

 それぞれの立場から、もっと様々な主張ができます。そして、この問題に完全な正解はありません。ですので、ディベートでは、相手の主張を聞きつつ、いかに説得的に主張できるかがカギとなります。

 法律問題を学ぶ際は、判例や学説を、いわば第三者の視点から考えることが一般的(なはず)です。しかし、ディベートでは、あえて一方の立場に立って考えることで、普段とは異なる角度から法律問題に触れることができます。
 事前準備は大変ですが、いつもとは異なる感覚で法律問題に触れることができるのは、ゼミの醍醐味の一つかもしれません。

21 基礎Ⅱ 写真
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