松山大学法学部准教授 甲斐 朋香
「俳都・松山」の夏の終わりの風物詩ともいうべき俳句甲子園。今年は久しぶりに全国大会のお手伝いを(ほんの少しだけ)させて頂きました。ひたむきにことばと向き合い、試合を重ねる間にも伸びてゆく高校生たち、時間と旅費を捻出して全国から駆けつけ、地元NPOスタッフとともに大会運営を担うOBOGの頼もしい姿。コロナ禍による様々な制約の下、3年ぶりにリアル開催された今年の大会にも、いつもと変わらぬ光景がありました。
大会後、ほどなくして放映されるテレビの特集番組も、例年のお楽しみのひとつです。ボランティアとして現場にいても、間近に見て接することが出来るのは、出場チームのごく一部。「こんな生徒さんもいたんだな」「こんな場面があったのか」と番組で初めて知ることも少なくありません。
今年、番組でクローズアップされた中に、福島県立磐城高等学校のチームがありました。「竜淵に潜む避難区域の町」この句を全国大会へ出すかどうかを決める部員たちの議論に、私は胸を衝かれました。「『フクシマ』、あー、原発だよねー、と安易に解釈されたり評価されたりしたくない」「そんなフィルターを通して感動されちゃうのは逆に癪」「でもそういうことを怖がり続けるのも無責任」…事故当時、避難先でいじめに遭遇し、幼心に「私はこんな『定め』を持ってしまった、そんな生き方をしなくてはいけないんだな」と感じた、という声もありました。11年あまり経つ今も、地元の若者たちは折々にあの事故と対峙しなければならないのです。
この番組が放送されたのは、安倍元首相の「国葬儀」が執り行われた数日後のことでした。原発事故による放射能汚染については”Under Control”だと言い切ってオリンピック招致を果たした元首相、その政権の中枢にいた日々を「本当に幸せ」だったと述懐した菅前首相のことばが、複雑な思いとともに私の脳裏をよぎりました。
第25回俳句甲子園全国大会は、強豪・開成高等学校の3連覇で幕を閉じました。各界にエリートを輩出する同校は、岸田首相の出身校でもあります。そして大会最優秀作品に選ばれたのは「草いきれ吸って私は鬼の裔(すえ)」-岩手県立水沢高等学校3年生・阿部なつみさんの一句でした。いにしえより「まつろわぬ民」と中央政権に迫害されつつも屈しなかった東北の地のことを誇らかに詠んだ作品です。
異なる出自や個性や考え方を持つ者が「鬼」として排斥され、ついには「鬼」と化すまでに追いつめられる―そうしたことのない社会を次世代へ手渡したい、と強く思います。そのためにも、さまざまな声に耳を澄まし、ことばを尽くして語り合える「場」を、私たちは今、つくりなおしていかなくては、と。