中世ヨーロッパの恋愛裁判

松山大学法学部准教授 伊藤亮平

 12世紀末、フランスの宮廷付司祭アンドレーアース・カペルラーヌスによって書かれたとされる„De Amore“ (慣例的に『宮廷風恋愛について』と訳されることが多いです)では、「愛とは何か」、「愛を如何にして獲得するか」など、愛にまつわる諸相が描かれています。

 その中に、さまざまな恋愛相談に対して女王や伯爵夫人が裁きを下すという章があります。伯爵夫人たちに寄せられた相談というのは、例えば、「恋人がいながら、恋人がいないふりをして別の女性を口説き、手に入れた途端に裏切って、再び恋人の元へ去っていくような男には、どんな罰が適切か」、「贈り物はどのようなものまでなら受け取って良いか」、「二人の立派な男から求愛された場合、どちらを選んだら良いか」などです。

 無論、これらは議論を楽しむという遊戯性に溢れたものですが、この章を読むと今も昔も人々の悩みはそれほど変わらないことを実感します。ちなみにここでは3つの相談を例に挙げましたが、それらに対する伯爵夫人たちの判決は次の通りです。

1.「女性を欺く男は恋愛の真の敵、彼には女性からの愛を得る資格はない。見せかけの言葉で騙されることはよくあるので、騙された女性は恥じなくても良い」

2.「ハンカチ、髪留め、ブローチ、手鏡、指輪など、ちょっとしたものなら受け取って良い」

3.「好きな方を選びなさい」

これで問題が解決できたかどうか、少し微妙な点もありますが、解決できたものと信じたいところです。

参考文献:アンドレーアース・カペラーヌス(瀬谷幸男訳):宮廷風恋愛について -ヨーロッパ中世の恋愛指南書(南雲堂) 1993年。

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