この家、誰のもの? ―空き家の話―

松山大学法学部教授 倉澤生雄

 私の自宅の近隣には、いくつか空き家がある。中には壁や屋根は崩れ落ち、敷地内には草木が生い茂っているものもある。「お隣さんは迷惑しているだろうな」と思いながら、その前を通り過ぎていく。

 2018年の総務省の調査によれば、日本に住宅の数は6,241万戸あり、空き家は849万戸に上るそうだ。四国の各県は住宅総数に占める空き家の数が多く、愛媛県は全国で第6位だ。空き家でも市場で流通できるものならいいのだが、冒頭に挙げたような空き家は人が住めるようなものではない。空き家といえども誰かの財産であり所有者がいるはずである。所有者は自らの財産を適切に管理しなければならないのだが、上述の空き家はどう見ても適切に管理されているようには見えない。むしろ放置されているようにさえ見える。

 全国的に増加している空き家について、市町村が何らかの措置をとれるようにするために、10年ほど前に「空家対策推進に関する特別措置法」が制定された。法は、空き家について「空家」と「特定空家」とを区分し、「空家」は利活用を促すべき対象とする一方、「特定空家」は倒壊等の危険があるため除却すべき対象としている。上述の空き家は、まさに「特定空家」にあたる。法第7条に基づき、市町村の中には空家対策協議会を組織しているところがあり、私も複数の市及び町の同協議会の構成員として会議に参加している。この協議会に関わる中で、空き家の所有者(または実質的に管理できる者)を特定するのに困難をきたす事例が多いことを感じている。法第14条により、市町村は、所有者に代わって特定空家を取壊すことも可能となった。ただし、その場合でも基本的には所有者と連絡を取ることが想定されている。所有者がわからないとなると、取壊しに向けた手続きはそこで一時停止してしまうのだ。市町村は、所有者の親族関係から空き家を相続できる者について確かめることができる。ただ、孫の代にまで渡ると親族の数が多くなり、中には容易に連絡のつかない者もでてくる。このような場合、親族間でも連絡が滞っていることが多い。親族間でも、誰が空き家を管理する、または管理費用をどう負担するといった話し合いもままならない。その結果、この空き家、誰のもの?という事態に陥っているのだ。近年、この事態を打開する動きも起こっているのだが、それは次回の投稿に。

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