身近な物質「コレ」・・の謎?

松山大学法学部教授 槻木玲美

 今年2023年は、阪神の岡田監督の「アレ」が話題になりましたが、今日は身近な「コレ」に注目して欲しいと思います。私達の生活は、もはや「コレ」なしでは成り立たないほど、生活にあふれている物質があります。何かお判りでしょうか??この記事を読む際に使うスマホ・PC機器、その充電機・文具・時計・食品パック包装・容器・洋服・住宅設備など生活の隅から隅まで使われているものです。

 答えは、「プラスチック」です。半径1m以内に必ず存在するほど「プラスチック」製品は、身のまわりにあふれ、大量消費されています。爆発的に普及が済んだ背景の一つにプラスチックは加工が容易で水に強く腐食しにくいというメリットがあるためです。しかし、このメリットは言い換えれば、生物に容易に分解されない素材ということになります。結果として管理が行き届かないプラスチックごみが、環境中に大量にあふれるようになりました。現在では、地球上の南極から太平洋に浮かぶ島々、深さ6000メートルの海底まであらゆる場所で確認されています。また最近、小さなサイズのマイクロプラスチックが空気中に漂っていることも確認され、私達は食べ物を介してだけでなく、呼吸を通じてプラスチックを体内に取り込んでいる可能性が指摘されています。一方、プラスチックは有害物質(PCB等)を吸着しやすい性質があることから、環境中に大量に存在するプラスチックが生き物や人間に及ぼす影響が懸念されています。しかし、環境中でのプラスチックの流れ・動き・存在量や生き物への影響の実態は未だ十分に判っていません。今日はプラスチックに関するホットな話題を取り上げ、身近な「コレ」の新たな一面を紹介したいと思います。

 まず日本でプラスチック製品が普及し始めたのは次のいずれの時期からだと思いますか?1.今から約100年前、2.約70年前、3.約30年前

 答えは2番です。約70年前の1950年代より日本でプラスチックの大量生産が始まりました。私達が研究を行っている、瀬戸内海、別府湾の海底の泥(堆積物)を用いた解析からも、1950年代の地層からプラスチックが初めて検出されています(詳細はプレスリリースに掲載中https://www.matsuyama-u.ac.jp/event/event-221663/)。僅か70年程の歴史しかないプラスチックですが、2050年には海洋に存在するプラスチックの総重量が海にいる魚の総重量を上回るという試算もなされています。このように膨大な量のプラスチックが海洋へ流出していると考えられていますが、実際に海洋表層で観測されるプラスチックの量は、これまでに環境中に放出された量の僅か5%ほどで、放出された推定量と海洋での実測値に大きな剥離があります。つまり、放出されたプラスチックが最終的にどこに行き着くのか、全体の大部分95%の行方が判っておらず「ミッシング・プラスチックの謎」と呼ばれています。今、世界中の研究者がこの謎を解明すべく研究を進めています。

 このように身の周りにあふれるプラスチック製品ですが、実は、どこに行ったのか行方不明中とは、何とも不思議な気がしませんか。

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