『大人の世界』と『大人のりくつ』

松山大学法学部教授 妹尾 克敏

 よく耳にする言葉のひとつに、「大人の世界」とか「大人のりくつ」というものがありますが、その実態はいまひとつわからないままです。たしかに我が国には、「少年法」なる法律が厳然と存在し、同法第2条第1項では「この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、「成人」とは満二十歳以上の者をいう。」と定められている。

 ただ、ごく最近の平成28年6月19日には改正公職選挙法が施行され、国民投票の投票権を有する者の年齢及び選挙権を有する者の年齢を20歳から18歳に引き下げることが決まりましたので、少年法はもとより、もっと大事な民法などの改正も避けられなくなるはずです。

 もっとも、今回の改正によって、地方自治法や漁業法、あるいは農業委員会等に関する法律という法律も同時に改正されていますので、すでに『大人』の定義そのものが変わっているということなのです。この18歳への引き下げによって、実に240万人の「有権者」が新たに誕生し、我が国における有権者総数の2%に及ぶと言われています。これからの日本国内の社会環境は、俄かに変動していくこととなり、かつての社会的常識がそのままでは通用しなくなるかもしれません。例えば、国際的にも著名な戦争放棄条項の第9条を堅持してきたにも拘らず、平成26年7月1日には閣議決定で「集団的自衛権」の行使が容認され、「安全保障関連法案」なるものが成立したことは、大学生や高校生に直接影響を及ぼすことなどあり得ないと思いがちですが、自分が18歳以上の新しい大人として扱われるということになると、少しばかり事情が違ってきます。そのうえ、万が一にも、そのような方向で、現行日本国憲法が改正されようとしたとき、この新しい大人を含めた国民投票が行われることになるわけです。

 ただ、現行民法の下でも、すでに男性は18歳、女性は16歳で結婚できるとなっている以上、今更あらためて選挙権を引き下げる意味があるんですか、という素朴な疑問や、憲法改正ってそんなに急がないといけないんでしょうか、という声が聞こえてきそうです。

 ともあれ、いま、日本で首相や大臣や国会議員などの『大人』がやっていることをもう少し踏み込んで勉強し、『大人の世界』を覗いてみたいと思っている人には、法学部がうってつけです。そのときには、決して皆さんを奇妙な「りくつ」で追い出したりしませんから。