大学生は考える・被選挙権年齢の引き下げを

* 本稿は、ゼミ生の久保さんが、基礎演習IIの「今週の気になるニュース」コーナーでの報告レジュメを加筆修正したものです。掲載に当たり、憲法(人権)担当の牧本公明准教授にコメントをいただきました。(ゼミ担当教員:銭偉栄)


〔今週の気になるニュース〕

被選挙権年齢の引き下げを

法学部2年生 久保千晴

ニュースの概要

 2015年、若い世代の意見を政治に反映させるという目的¹⁾で選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられた。一方、被選挙権年齢の引き下げは行われず、満25歳以上又は満30歳以上で維持されている。2023年4月9日・23日に投票日を迎えた統一地方選挙では、被選挙権年齢の引き下げを求め、被選挙権年齢に満たない大学生らが立候補届を提出する動きが相次いだ。大学生らは、若い世代の政治参加のさらなる拡大を目指している。今後は国に対して違憲訴訟を起こす予定であり、違憲審査の前提の具体的事件として、不受理となることを見越して立候補を届け出たのである。たとえば、船橋市議会議員選挙への立候補届が不受理となった大学生の中村涼香さん(22)は、「少子高齢化が進むなかで、私たちの世代が政治に関わるべきだと思う」と話した²⁾。集団訴訟の原告側代理人である弁護士は、選挙権年齢と被選挙権年齢に差があるのは年齢に基づく差別であり、法の下の平等に反すると主張している³⁾。

感想

 私は被選挙権年齢を引き下げ、選挙権年齢と統一することに賛成する。被選挙権年齢に選挙権年齢との差を設けることに合理的な理由はなく、また、被選挙権年齢の引き下げは候補者の多様化につながり、有権者にとっても投票先の選択肢が増え、若い世代の意見をさらに政治に反映させやすくなると考えるからである。

 日本において、被選挙権年齢は、衆議院議員、都道府県議会議員などは満25歳以上で、選挙権年齢との間に7歳の差があり、参議院議員及び都道府県知事は満30歳以上で、選挙権年齢との間に12歳の差がある⁴⁾。海外に目を向けると、選挙権年齢と被選挙権年齢(下院)の差は3極に分かれ、0歳差、3歳差、7歳差のいずれかとする国が約3割ずつ存在している⁵⁾。また、両院の被選挙権年齢を比較すると、上院の被選挙権年齢を下院よりも高く設定している国が6割を超える⁶⁾。OECD加盟国に限ってみると、選挙権年齢と下院の被選挙権年齢が一致している国は55%を占め、両院議員の被選挙権年齢が一致している国は47%にのぼる⁷⁾。

 被選挙権年齢と選挙権年齢に差を設けるべきか否かについては、考え方が分かれている。1つは、議員の職務内容又は公職に就く地位の重要性を考慮して、被選挙権年齢を選挙権年齢より高く設定することが必要であるという考え方である⁸⁾。もう1つは、選挙人が適任者を選べばよいので、年齢制限は必要なく、少なくとも選挙権年齢と同じであってよく⁹⁾、または、国民が国民の中から代表を選ぶという治者と被治者の同質性の観点から、被選挙権年齢と選挙権年齢は同じであるべき¹⁰⁾だという考え方である。両院の被選挙権年齢の差についても、年齢とともに思慮分別が深まるから、良識の府としての役割を果たすために参議院議員の被選挙権年齢を衆議院議員より高くすべき¹¹⁾だとか、参議院議員選挙法の制定時には、参議院の構成を衆議院とは異質なものにするために被選挙権年齢に差を設けた¹²⁾など、という説明がなされている。

 しかし、政治家として適任か否かを判断する基準として、年齢制限を用いることにどこまでの合理性があるのか疑わしい。政治的判断力や責任感には個人差があり、年齢よりも個人的な経験や政治に対する関心などによる部分が大きいだろう。加えて、選挙に立候補することと当選することは別問題である。未熟な候補者は有権者が投票しなければ落選し、政治家になることはないので、被選挙権年齢を引き下げるデメリットは少ないと思われる。

 被選挙権年齢の引き下げは、立候補したいと考える若者の利益になるだけではなく、有権者にとっても投票先の選択肢が広がるというメリットがある。現在のように一律に年齢制限を設けることは、若い候補者に期待する有権者の選択肢を奪うことになる。例えば、教育などの問題について、当事者の生徒や学生により近い視点を持つ若い政治家の政策に期待する有権者もいるだろう。しかし、現行の制度下では、25歳未満の候補者に投票するという選択肢自体が有権者に与えられていない。若い候補者には社会経験が不足しているという反対意見もあるが、有権者が候補者の経験不足を理解した上で若者独自の役割に期待して投票するならば何の問題もないだろう。25歳未満は政治家として適性がないと一律にみなすのではなく、候補者が適任か否かの判断は有権者に委ねるべきである。

 また、被選挙権年齢を引き下げることで、若い世代の意見をより政治に反映させやすくなるだろう。特に、現在の制度下では参議院には20代の議員が存在しておらず、特定の世代が政治の場に参加できない状態となっている。教育や子育てなどの若い世代が重視する問題¹³⁾について、当事者に近い視点から要求を代弁する議員の存在が必要である。加えて、被選挙権年齢の引き下げは若者の投票率によい影響をもたらすと考える。イギリスでは2006年に被選挙権年齢が21歳から18歳に引き下げられたが、その後継続的に18~24歳の投票率が上がっている¹⁴⁾。被選挙権年齢を引き下げることは、若者の代表が増えることと若者の投票率が上がることの両面において意義があると思う。

参考文献

1)「若者の皆さん!あなたの意見を一票に!」政府広報オンライン、2021年10月27日
 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201602/1.html
 2023年5月4日8時最終閲覧

2)「大学生が被選挙権引き下げ訴えて立候補届け出 受理されず」NHK NEWS WEB、2023年4月16日
 https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20230416/1000091567.html
 2023年4月30日17時最終閲覧

3) 「若者 出馬の壁に一石」、『愛媛新聞』2023年4月15日 p.4

4) 「選挙権と被選挙権」、総務省HP
 https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo02.html
 2023年4月30日17時最終閲覧

5) 那須俊貴「主要国における被選挙権年齢(資料)」レファレンス 833号、2020年6月20日、p.73
 https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11504141_po_083304.pdf?contentNo=1
 2023年4月30日17時最終閲覧 

6) 那須「主要国における被選挙権年齢(資料)」前掲注5、p.74

7) 那須「主要国における被選挙権年齢(資料)」前掲注5、p.63

8) 野中俊彦ほか『憲法I 第5版』有斐閣、2012年、p.544(高見勝利執筆部分)
 「『参政権の保障をめぐる諸問題』に関する資料」衆憲資第92号、2017年3月、p.28
 www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi092.pdf/$File/shukenshi092.pdf
 2023年4月30日17時最終閲覧

9) 野中ほか『憲法I 第5版』前掲注8、p.544

10) 前田英昭「国会の先例は語る(102) 選挙・被選挙年齢の引き下げ―若者よ、政治を変えていこう―」『国会月報』50巻650号、2003年2月、p.55

11)「『参政権の保障をめぐる諸問題』に関する資料」前掲注8、p.29
 www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi092.pdf/$File/shukenshi092.pdf
 2023年4月30日17時最終閲覧

12) 第91回帝国議会貴族院本会議第5号 昭和21年12月4日、帝国議会会議録検索システム
 https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/#/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=9&single
 2023年4月30日17時最終閲覧

13) 「【出口調査】若い世代は「子育て・教育政策」に関心 世代別の重視した政策は」YAHOOニュース、2022年7月10日
 https://news.yahoo.co.jp/articles/567b515d66005d107de7428d899b9e3c0ee946a7
 2023年4月30日17時最終閲覧

14)「『25歳の壁』って何?被選挙権の年齢引き下げが求められる理由」COSMOPOLITAN、2022年7月31日
 https://www.cosmopolitan.com/jp/trends/politics/a40648026/eligibility-for-election/
 2023年4月30日17時最終閲覧


【コメント】

 本報告は、2023年4月実施の統一地方選挙における、被選挙権年齢に満たない大学生らの立候補届の提出に関するニュースを採りあげ、選挙権年齢と被選挙権年齢の区別の問題点を指摘している。その際、区別に対する肯定的意見と否定的意見について、多くの参考文献を用いながら丁寧に整理している点が高く評価できる。

 選挙権年齢と被選挙権年齢の区別については、区別することそのものだけでなく、選挙権年齢との「差」、すなわち立候補できる年齢が25歳(衆)と30歳(参)に設定されている点についても、「法の下の平等」等の観点から、その合理性について意見が分かれている。本報告では、以上のような点についても一定の検討が加えられており、そのうえで、若者の投票における選択肢の拡大や政治参加に対する障壁の除去という理由から、被選挙権年齢の引き下げの提言がされている。その提言の当否については、意見が分かれるところであろうが、問題の把握、分析、そして文献を用いた丁寧な考察については、十分に評価できる。

 また、本報告では、立候補届の不受理を受けた、被選挙権年齢の規定に対する合憲性審査を求める訴訟が提起されることも紹介されており、裁判所の判断についても注目される。

(憲法担当:牧本公明准教授)

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