瀬戸内海の過去・現在・未来

松山大学法学部教授 槻木玲美

 瀬戸内海と言えば、皆さん、綺麗で穏やかな海という印象をお持ちでしょうか。実はその昔、今から40年~50年前の瀬戸内海は、プランクトンの大発生で海が赤く染まる赤潮が頻発し、その影響で養殖魚が大量死する「瀕死の海」でした。今の瀬戸内海は、その富栄養化した状況を改善するために1973年に施行された瀬戸内海環境保全臨時特別措置法や様々な対策により、綺麗になった賜物です。しかし、今ではまた新たな問題が顕在化しています。逆に綺麗になりすぎて、魚が減って、豊かな海でなくなったという貧栄養化の問題が指摘されるようになりました。このため、現在では綺麗で魚がよく採れる「豊かな海」が目指されています。

 瀬戸内海の事例から見えてくることは、環境に関する法律は、自然環境に大きな影響を与えること、さらに、法の施行で変化した自然環境に対して、私達は改めて自分達の理想の姿に近づけていくための対処や法整備を進めていく必要に迫られる、という点です。

 一方、瀬戸内海は私達の管理が及ばない、太平洋からの外洋水の影響を受けることが知られています。つまり、私達が管理できる陸だけに目を向けて瀬戸内海のあり方を考えればよい訳でもないのです。これから瀬戸内海で「豊かな海」はどのように実現されていくのでしょうか、法の整備がどのように進められるのかが重要なカギを握っています。瀬戸内海へ足を運ぶ機会があれば、これまでの歴史を踏まえて瀬戸内海のありようを見直してみると面白いかもしれません。

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