Dihydrogen monoxide

松山大学准教授 松田龍彦

 「問題解決能力を養え」「丸暗記はもう古い」等々、最近よく言われることではあります。では、どうすれば「自分で考える」ようになれるのでしょう。この短いコラムで語り切ることはおよそ無理でしょうから、一例を挙げてみましょうか。

 ”常温で液体であるこの物質はDihydrogen monoxideという水酸化合物で、熱を加えると爆発的に容積が増えることからかつて工業用に多用された。しかし、わずか1L程度でも人間の命を奪うことがあり、多くの物質を腐食するほか、現在では温室効果の原因となることがわかってきたにもかかわらず、未だに法的に利用が規制されておらず、犯罪者の99%以上が犯行前12時間以内にこれを摂取していることが統計上明らかである。”

 数年前に私が担当する法学部の基礎演習で、概要上記の文章を読み上げて、この物質を法的に規制すべきか否か5分程度議論させたところ、過半数が規制すべきと答え、数名が沈黙(「化学とってない」「苦手」とか)、規制すべきでないと答えたのは2名のみでした。特に、犯罪者の摂取云々が決め手になって規制を、と理由づけた者が多数でした。

 この物質は、タイトルの通り、一酸化した水素2つ、つまり「水」です。当然規制などできるはずもありません。……騙したな、ですって? ええ、演習の時にも言われました。ですが、上記文章に一切嘘は含まれていません。誤嚥性の窒息死は少量の水でもあり得ますし、いろいろな物質が水に接すれば錆びます。半日水を飲まない人はまずいません。それらしい煽り文句にしてあるだけです。もともとこの元ネタ自体がエイプリル・フール由来らしく、Web上ではそれなりに有名で、人がいかに騙されやすいかを説く内容です。ちなみに、別の理系の大学でこれをやった時にはもっと悲惨でしたから、本学学生だけが著しく劣っているといのではなさそうです。

 では、元ネタを知らずに、自分の頭だけで、このような手口を見破れるでしょうか? 何を知っていたら、どう考えたら、こういう詐欺的な手法を回避できるのでしょうか?

 ご自分で、そう、自分自身で、答えを見つけ出そうとしてみてください。それこそが、「人に頼らず、自分で考える」ことにつながるのです。……難しいようなら、最初は人に、そう、大学に限らず、教員とかに頼ってもいいですよ。でも、ただ答えを聞くだけで、わかったような気持ちにならないようにしてくださいね。

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