「六法」は鮮度が命?

松山大学法学部准教授 牧本公明

 比較的大きな書店に行くと、法学部の教員という職業柄か、法律関係の書籍のコーナーについ足が向いてしまいます。そこには日本の法律等が収録されている、いわゆる「六法」が陳列されています。「六法」は、多くの出版社が出版しており、大小さまざまな種類が存在します。そして、法学を専攻している研究者や弁護士などの法律実務に関わる人達にとってはもちろんのこと、法学を学んでいる学生にとっても、常に使用するとても身近なものです。

 それでは、そもそも「六法」とは何を意味する言葉なのでしょうか。一般的には、「六法」とは、「憲法」「民法」「刑法」「商法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」の六つの法のことを指すとされています。これらは日本の法の中で特に重要とされているもので、これらを含め日本の主要な法が収録されている書籍のことを「六法」と呼んでいるのです。

 以上のように、法学を学ぶ者にとって非常に重要な情報が掲載されている六法ですが、私は、法学部生時代から毎年欠かさずに一冊ずつ六法を購入しています。一年に一冊ずつ増えていくため、私の研究室には数多くの六法があります。六法は、法学を学ぶ際に、実際の法律の条文を確認する必要がある時などに使用する、語学などで言うところの辞書や辞典のようなものです。ただ、辞書や辞典は、通常の使用方法であれば、毎年買い替えることはありません。中高生時代には、先生から「辞書が手垢で真っ黒になるくらい使用して勉強しなさい」と言われたぐらいです。それでは、なぜ私は六法を毎年買い替えていたのでしょうか。その問いへの答えは、「法律は毎年何らかの制定改廃をされているから」になります。

 法律は、いわば「社会のルール」というようなものです。それは、社会が変化すれば、それに合わせて新たなルールが必要になったり、これまでのルールを変えたりする必要があるということでもあります。近年の代表的な法改正としては、2005年の会社法制定に伴う商法の改正や2017年から18年にかけての民法の改正(債権法や相続法の改正、成人年齢の引き下げなど)などが挙げられます。それこそ細かい改正まで含めれば、枚挙に暇がありません。毎年出版される六法には、そのような法律の制定改廃が逐一反映されています。そのため、昨年の六法と今年の六法では、内容が異なっている部分があるのです。つまり、古い六法ではそのような法律の制定改廃に対応できず、それを使って学んでいると、現在の条文とは異なる内容の条文を参照しながら学んでいるという不都合が生じてしまうわけです。

 毎年のように行われる法律の制定改廃に対応し、常に最新の情報に接しながら法学を学ぶために、六法の「鮮度」には気を配らなければなりません。些細なことに感じられるかもしれませんが、そのような細部にも気を配れるかどうかに、その人の学問への態度や考え方が表れていると思います。

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