刑事立法について

松山大学法学部教授 明照博章

はじめに

 近時、性犯罪に関する刑法改正や特別刑法の制定がなされています。2023(令和5)年にも、大掛かりな性犯罪関連立法があり、刑法改正と特別刑法制定という対応がなされました。つまり「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(令和5年法律第66号)及び「性的姿態撮影等処罰法」(令和5年法律第67号)が成立したのです。

刑事立法の変化

 刑事立法が活性化したのは21世紀初頭以降ですが、かつて、日本の刑事立法について「立法がピラミッドのように沈黙するとき、判例はスフィンクスさながらに奮い起つ」と表現される時代がありました(昭和時代:「昭和」は、昭和64年(1989年)に終了した)。

 刑事立法が不活性な時代を経て「刑事立法の時代」となりましたが、これは、条文自体には変更を加えず、裁判所が解釈に変更を加えて対処する方法には限界があると認識されるようになったのだと思います。

刑事立法による対処方法と具体例

 刑事立法での対応が活性化すると、その対応策として、刑法を改正する方法と特別刑法を新たに制定する方法が考えられます。2023年の性犯罪関連立法では、刑法改正と特別刑法制定という形での対応となりました。

 刑法改正前は、強制わいせつ罪・強制性交等罪の成立には行為者の被害者に対する暴行・脅迫が必要でしたが、刑法改正に伴い、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の成立には暴行・脅迫が必須とされなくなりました。

 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪が成立するには、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」が必要であり、その類型として、①暴行・脅迫、②心身の障害、③アルコール・薬物の影響、④睡眠その他の意識不明瞭、⑤意思を示す時間の不存在(不意打ち)、⑥恐怖・驚愕、⑦虐待に起因する心理的反応、⑧地位に基づく影響力による不利益の憂慮の8つが予定されたのです。

刑事立法による認知件数の増減の意味

 2023年刑法改正の結果、犯罪件数の認知件数が増えました。「認知件数」は「犯罪について、被害の届出、告訴、告発その他の端緒により、警察等が発生を認知した事件の数」ですが、「不同意わいせつの認知件数は、令和5(2023)年は6,096件で、前年に比べ1,388件(29.5%)増加」し、「不同意性交等の認知件数は、令和5(2023)年は2,711件で、前年に比べ1,056件(63.8%)増加」しました。(内閣府『男女共同参画白書 令和6年版』) 

 この変化は何を意味するのでしょうか? 治安悪化に直結するのでしょうか? 一度、考えてみてください。

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