三権分立の具現 ―権力の自制―

松山大学法学部教授 高嶋 めぐみ

 プロ野球・読売ジャイアンツ阿部慎之助監督が令和 8(2026)年 5 月 25 日 18 歳の長女を押し倒すなどの暴行を加えた疑いで現行犯逮捕されその後釈放、不起訴処分となった。令和元(2019)年 6 月に「親権を行う者は児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」と明記した改正児童虐待防止法、改正児童福祉法が成立、令和 2(2020)年 4 月に施行。親が子に対してであっても体罰は暴行罪となる。

 その後令和 8(2026)年 6 月 2 日の参議院法務委員会において、鈴木宗男議員がこの事件を取り上げた。このことは捜査の公正、ひいては司法の独立という観点から疑義無しとしない。事後的にではなく、現に継続中の捜査について部外者がかように干渉することは刑事警察機能への圧迫となる。

 つとに昭和 23(1948)年 4 月埼玉県幸手市で起きた殺人事件をめぐり参議院法務委員会が国政調査権の発動としてこれをあげつらったことが司法の独立を侵害するものであるとして大問題となった浦和充子事件がある。3 人もの子殺しでありながら、司法判断は情状を酌み懲役 3 年で執行猶予を付した。

 この浦和事件は新憲法最初期の憲政史上著名な事件である。憲法 62 条に「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」の定めにより行われたわけだが権力分立の下限界はあろう。参議院法務委員会が量刑不当の決議を行ったのに対し、最高裁判所は個々の具体的裁判について事実認定や量刑を調査し国政の場で云々することは立法府の権能たる国政調査権の範囲を超え、司法の独立を侵害すると。学説も概ね最高裁を支持している。

 国会が国権の最高機関とはいえ、三権それぞれチェック&バランス関係に立つものであって、司法の上位に立つものではない。捜査の指揮を成すべき立場でもない。現に継続中の事件について、横槍を入れること果たして是か非か。

 阿部父娘の一件は不起訴処分に終わり司法の段階に到達しなかったが、構造としては同じである。司法に対すると同様、国会は捜査にも介入してはならない。

 司法は世論からも国民からも独立でなければならない。何でも世論だ民意だというと人民裁判になってしまう。権力なればこそ自制が望まれる。週刊誌的興味とは別に、憲政の根幹、三権分立、司法の独立といった最重要問題を蔵しているのだから。

 大事は細部にも宿る。

«