(身近な)トイレ問題と法

松山大学法学部准教授 山川秀道

 今日、トイレの利用にも多様化が求められています。最近の裁判でも、生物学的には男性であっても自分の認識する性別は女性であるという方に男性トイレの利用を求めてよいのかが問題となりました(最高裁判所令和5年7月11日判決(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92191))。特に学校・職場以外の公共空間におけるトイレ利用について、これは大きな問題となります。多目的トイレのような完全個室型の無料トイレが普及すればもちろん結構ですが、コストの面から難しいかもしれません。皆さんならどのような解決策を提案するでしょうか。

 私が思いついた案は単純なもので、「有料の多目的トイレ(というよりトイレ付個室・休憩室)がもっと身近にあれば良いのに」というものです。例えば、仕事帰りにプロ野球の試合を観に行くため好きな球団のユニフォームに着替えたり、外食後に歯磨きしたりできる空間があって欲しいなと思ったことはないでしょうか。実のところ私自身、外食する度、歯磨きの場所に悩んでいるのです。外出時は仕方なく駅や公園のトイレを借りるのですが、少ない洗面台を歯磨きで独占してしまうことは大変申し訳ないのです。学会の時などは他大学のトイレを借りて歯を磨いていると、偉い先生が入って来られて、慌てて歯ブラシ片手にお辞儀するなどという悲劇も起こります。そんな時いつも思うのは、「(駅・空港、コンビニ、ネットカフェ等に)10分/200円位で利用できる多目的トイレ」があれば常連になるのになぁということです。もしかすると「有料の多目的トイレ」が身近にあれば、無料の公衆トイレよりもそちらを利用したいという人は案外多いかもしれません。実際、LGBTの方のなかには、無料の多目的トイレを利用することに引け目を感じる人も多いようです(LIXIL・虹色ダイバーシティ「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査, 2015」(https://newsrelease.lixil.co.jp/user_images/2016/pdf/nr0408_01_01.pdf))。確かに無料の限定スペースを利用する場合にはそのような感覚も理解できます。けれど、コインパーキングの利用には引け目を感じないでしょう。同様に、「有料の多目的トイレ」がもっと身近にあれば多様な人がその空間を引け目なく利用できるのではないでしょうか。もちろんこの案だけでトイレ問題を万事解決することは難しいと思いますが、問題解決を促すことは期待できるかもしれません。

 法・権利は、共同生活上の要請や、その要望が不正なものである場合の社会的反発を通じて発展するものだと思われます。上の話もその一例と言えるのではないでしょうか。

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