法学と法と裁判所

松山大学法学部教授 明照博章

 現在、日本初の女性弁護士(の一人)である「三淵嘉子(みぶち・よしこ)」氏をモデルとした「虎に翼」が放映されています(2024年4月1日から放映)。
 主人公は、「法学」を学び、「法とは何か」を模索しながら活動しています。
 では、「法学とは/法とは」何でしょうか?

 法学は、法に関する学問です。
 法は、社会生活に必要です。
 社会は、「目視できませんが、存在を実感できる」「人間関係の網」です。
 法は、人間関係の網の「網目」となっている「人間」の「行為」に「善/悪」の評価をつけて、社会を方向づけます。

 法は、人間の行動の「善/悪」に関する評価基準ですが、人間関係の網(社会)を前提としますので、人間関係が変われば、評価基準自体が変わります。にもかかわらず、社会を超えて「普遍的に正しい法(評価基準としての法)」があることを前提に、法学の議論は進行します。

 現在、人間は「法的に平等」であることが前提です。しかし、具体的な人間を見ると、生物的にも能力的にも「完全に同一」の人間はいません。にもかかわらず、人間が「平等」であることが「普遍的に正しい」とすると、「平等」の内容について、社会の構成員が「完全に同一」の認識を有している可能性は殆どありません。

 例えば、XとYが認識する「平等」に差異がある場合、Yは「Xの自分への扱い方を『不平等』である」と主張しても、XとYの話合「だけ」では解決できません。そのため、紛争は最終的に裁判所に持ち込まれ、裁判所は、どちらの言い分が「正しい」かを決めることになります。

 裁判所の判断(判例)の積み重ねによって、社会(人間関係の網)は変化します―新しい状況(人間関係の網)に即した「法」を明確にした「新しい法律」ができることもあります。
 状況(人間関係の網)が変化・定着すると、新しい状況に基づく「正しさ」の基準となる法に従って「行動すること」が要求されることになります。

 ただし、新しい状況が「未来永劫」変化しないわけではありません。人間関係が変化すると、この変化に伴い発生した状況に基づく「新しい正しさ」が、裁判所により承認されることがあるからです(場合によっては、新立法)。

 法は―裁判所の判断を通じて―変化する人間関係の網(社会)の網目(人間)の行動に「善/悪」の評価をつけますが、社会と連動して変化する法を対象とする学問が法学です。
 法学は、常に変化する「人間関係の網」(社会)を踏まえ、「普遍的な正しさ」という視点から人間(網目)の行動を評価する法の在り方を分析する営みです。

 「法学/法」を知った上で、「虎に翼」に登場する人々の「行動と思い」を追体験してみてはいかがでしょうか?

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