松山大学法学部教授 倉澤生雄
2024年4月に総務省は、日本の住宅数及び空家数に関する最新の結果を公表した。これによると住宅総数は6,502万戸、空家総数は900万戸であった。賃貸・売却用の空家及び別荘などの二次的な住宅を除く空家は385万戸にのぼり、空家の増加は、一層深刻になっている。最近、空家の対処に関連する記事を目にする機会も増えてきたし、私自身も、昨年、ここに記したコラムを見た不動産業者から取材を受けることもあった。空家対策推進に関する特別措置法(以下、「法」と記す。)は一昨年12月に改正法が施行された。本コラムは、法第22条の手続に焦点を当ててみることにする。
法第9条に基づき、市町村長は空家の実態について調査をしている。その中で「特定空家」に該当すると判断すると、法第22条に基づき、市町村長は建物等の所有者に対して、当該建物の除却、修繕、立木の伐採などの助言・指導(第1項)、勧告(第2項)、勧告に係る措置の命令(第3項)、代執行(第9項)と手続きを進めることができる。これらの手続きについて一気に記していきたいところではあるが、文字数の都合で、今回は助言・指導、勧告のところまでで留めることにしたい。
助言・指導及び勧告は行政法でいうところの「行政指導」に該当する。これは、行政機関が国民に対して一定の行為をするよう促すときに用いる手法であるが、国民がその行動をとるか否かはその者に任されている。市町村長は特定空家を除却してほしいと考えて助言・指導を行うが、国民が従いたくないのであれば従わなくてもよい。市町村長は非常に優しく特定空家の対処に取り掛かっていくのだ。
助言・指導に従ってもらえないと、市町村長は勧告を行う。勧告もまた行政指導である。なぜ行政指導が二段階になっているのだろうか。この法律だけ眺めていてもその答えは見つからない。地方税法第349条の3の2及び第702条の3の規定と勧告とを絡めることで、その正体がわかる。勧告を出されると、特定空家の所有者は、その敷地に係る固定資産税の軽減措置を受けられなくなってしまう。つまり、固定資産税が6倍になってしまうのだ。特定空家の所有者に対し、放置しておくと税負担が重くなるという圧力を利用して、自発的に対処することを想定している。二段階目の行政指導は、一見優しそうに見えるが、決して優しい訳ではない。
特定の法律の勉強をしていると、その法律及び命令ばかり見てしまう。しかしながら、一歩引いて関わりのある法律まで目配りをしておかないと、案外に全体像はつかめないものである。