松山大学法学部教授 槻木 玲美
皆さん、日本最古の温泉と言われる道後温泉の100倍以上の歴史を有する「日本最古の湖」をご存知でしょうか?「日本最古の湖」は、実は近畿地方1450万の人々、愛媛県総人口の10倍以上もの人達、が利用する水を提供している日本最大の湖です。また世界的にも数少ない40万年以上もの長い歴史を有する古代湖として、独自に進化してきた固有な生き物を数多く育んできています。どんな湖を想像されたでしょうか??
答えは・・滋賀県に位置する、琵琶湖(びわこ)です。
琵琶湖の平均水深は41mで、私達の身近な瀬戸内海の平均水深38mより深く、最大水深は100mもあります。貯水量は東京ドームの2万杯分以上!に相当すると言われています。このように膨大な水をたたえる琵琶湖ですが、1950年代より周辺域からの住宅排水や農業・工場排水により、植物プランクトンを増殖させる栄養塩が大量に流入し、プランクトンが高密度に増え、いわゆる、富栄養化が進行しました。その結果、特定のプランクトンがカビ臭の原因となる物質を作り出し、飲み水のカビ臭問題や魚の斃死も顕在化し、大きな社会問題となりました。そこで1979年に「琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例(富栄養化防止条例)」が制定され、1980年に施行されました。本施行は絶大な効果をもたらし、1980年代に富栄養化が抑制されたことが知られています。
しかしこの後、1980年代半ば頃からは、冬の温暖化やブラックバスなど外来魚急増による在来魚の捕食が新たな漁業被害として顕在化し、1985年から琵琶湖を有する滋賀県は独自に外来魚の対策を実施しています。近年、外来魚は減ってきましたが、貴重な水産資源であるアユは、未だに不漁が続いています。なぜ、アユは回復しないのでしょうか?その原因の一つに、餌となる動物プランクトンが不足している可能性が指摘されてきました。しかし、私達の研究からアユの主要な餌である動物プランクトンのミジンコは減っておらず、逆に、別の外来種である大型ミジンコ(Daphnia pulicaria)が1990年代に侵入し、侵入後、アユなど魚の減少で、つまり捕食圧の低下で、増えてきていることが見えてきました。従って、アユは餌不足で低迷しているとは考えにくいと推察されます。このように、日本最古の琵琶湖に暮らす生き物は、人の営みによる影響の下、食う―食われる関係など生き物同士のつながりの中でダイナミックに変化してきています。さらなる温暖化の進行が懸念される中、生物多様性の宝庫である琵琶湖が、これからどのような変化をしていくのか、多くの研究者が注目しています。
