ある研究者の軌跡

松山大学法学部教授 内海淳一

 この度、2026年3月を以て32年間の大学生活を終えることとなりました。

 振り返ってみれば、指導教授の蓮井良憲先生との運命的な出会いは、当時学部2年生で受講した商法Ⅰ(総則・商行為法)の授業でした。前期定期試験前の講義終了後に質問に行ったところ、「きみは研究者になるのか?」と唐突に聞かれ、反射的に「いいえ」と答えてしまいました。ただ、その時から今日に至るまで蓮井先生のその言葉が忘れられません。3年次では蓮井先生の論文演習及び論文指導(2年間)を履修し、4年次のゼミでの進路指導の際に大学院進学の希望を言ったところ、私の場合は「じゃあ勉強しなさい」の一言で終わりました。晴れて修士課程に進学すると、蓮井先生から勉強について言われることは殆どなく、夏休みや春休みなどの温泉旅行の企画が私にとって重要な役割でした。しかしながら、旅の帰路の車内で蓮井先生がボソッと「2日間勉強してないなぁ」と呟かれた記憶があります。今となってみれば、これは「2日間遊んだから、今度は勉強しなさい」という逆説的な意味だったと理解することができます。このように、蓮井先生からは直接的な指導というよりも、間接的に教え導かれたように思えます。蓮井先生自身、恩師の大隅健一郎先生から自由・放任主義の指導を受けたから、自分も同じことしかできないと言われたことがありました。こうして私は放し飼い状態で育てられたのち、広島県福山市に新設された福山平成大学に就職し、会社法研究者と教員の大学生活が始まりました。

 大学教員は研究と教育両面での職務が求められますが、福山平成大学での9年間は、専ら学生との関係構築を重視しました。蓮井先生は学生との吞み会を断ることは一切ありませんでしたので、私もそれに倣って学生とよく遊んでいました。さらに蓮井先生の「学生との付き合いは大学卒業後のほうが長いので大切」との教えから、現在でも“教え子の呑み友達”として楽しく呑み歩いています。ただし、研究者としての自覚を忘れないように…

 2003年4月に松山大学に赴任してからは、徐々に会社法の研究にも力が入るようになり、米国(テキサス州ダラス)での国外研究(2008年~2009年)を契機に株主提案制度について考えるようになりました。結果的に、このテーマが私のライフワークとなりました。今日では、株主総会において会社の構成員である株主の提案権限の濫用問題等が表面化していますが、本来的には会社経営陣との建設的な対話が求められます。

 昨年(2025年12月)、株主提案に関するそれまでの研究成果を書籍販売(株主提案の理論と実践/法律文化社)し、ある会社法研究者がいた証を公表しました。これにより、研究者生活に一区切りをつけて、今後は新たな人生テーマの探求生活に入るべく、恩師・蓮井先生が眠る興正寺霊山本廟(京都)にその旨報告(2026年2月13日)して参りました(合掌)。

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