高級ワークチェアとわたくし(インターフェイス道楽その2)

松山大学法学部准教授 伊藤信哉

 前回の記事で、若いころの私が、年長の知人から「インターフェイス〔身体にじかに接するもの〕にはお金を掛けなさい」と助言されたことを紹介しました。今回は、そのつづきです。

 2012年の秋。私は東京の、とあるお店にきていました。研究室のワークチェアに「試座」するためです。事前予約も入れ「チェアコンシェルジュ」なる専門家から助言をいただくことにもなっていました。

 この記事を読まれるみなさんにとって、大学のセンセイといえば「授業をするひと」という印象が強いかもしれません。しかし実際は、レポートの採点をしたり、自分の研究をしたりと「机に向っている時間」の方が長いのです。そのため腰痛に悩む教員も多く、わたしの友人にも、そういったひとが少くありませんでした。

 そのため今回、仕事用の椅子を新調するため、はるばる東京までやってきたのです。事前に候補は絞り込んだものの「自分に合った椅子は、体格や用途で異るので、実際に座って(試座して)みないと判らない」との意見によるものでした。そして松山には、ワークチェアの専門店がありませんでした。

 お店には、国内外の高級チェアが数多く展示されていました。価格は安くても数万、高いものは30万円を超えます。最初に専門家から「椅子の正しい座り方」を教えてもらい、展示されていた椅子の半分以上に「試座」したあと、選んだのは台湾メーカーの椅子でした。9万円もしましたが、とにかく私の体格にはぴったりでした。

 それから13年のあいだに、私は同じモデルの椅子を、いくたびか購入することになります。最初のものが10年ほどで壊れ、また自宅でも同じ椅子を使うことにしたためです。いまは値上がりして13万円ほどもしますが、長年「インターフェイスにお金を掛け」てきたおかげで、腰の方はすこぶる快調です。肩や首の痛みもありません。「椅子ごときに10万円も出すなんて」と言われそうですが、いまの私には「椅子やメガネは何度でも新調できるが、腰や目は買い換えられない」という言葉の正しさが判ります。

 13年前、私に椅子のイロハを教えてくれた「チェアコンシェルジュ」も、こんなことを言ってました。「あなたのような(健康な)お客さんは珍しい。うちの店にいらっしゃるお客さんの大半は『腰を悪くしたので、すこしでも痛みが小さくなる椅子がほしい』というのだが、そもそも椅子は治療器具ではないから、腰を悪くしてから相談されてもどうしようもない。あなたはぜひ、周囲のひとたちに『高級チェアは健康なうちに購入するものだ』と言ってくれ」と。

 というわけで。社会人のみなさんは、たとえ自腹を切ってでも(私は切りました)仕事用の椅子は良いものを使いましょう。高校生の皆さんも、もし部活などで腰や膝などを痛めたら、若いうちに徹底的に治療してください。さもないと、いつか仕事や生活に支障をきたすことになるかもしれませんよ。

研究室用椅子
自宅用椅子

Webオープンキャンパスの摸擬講義も担当しました!ぜひご覧ください。
 https://nyushi.matsuyama-u.ac.jp/web-opencampus/5375/

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