自分の意思に反していても ―空家の話その3(完)―

松山大学法学部教授 倉澤生雄

 当たり前すぎて普段は意識しないけれど、現代社会では、誰もが「法律的に」平等な存在である。私とあなたとの関係で、実際にはどちらかの影響力が強くて困惑することもあるかもしれないが、法律的には相互に平等の地位にあることを前提にする。したがって、私があなたを無理やり屈服させるようなことはできないし、その反対もできない。私とあなたとの間で合意をすることが、物事を前に進めていくには欠かせないのだ。これが日常生活の基本的な考え方といえる。「その2」で紹介した行政指導というのもこの延長にあるので、市町村長は空家の所有者に対し、空家の取壊しなどをお願いし、市町村と所有者との合意の上で取壊しなどをしてもらうことになる。

 それでは、双方で合意できなかった場合にどうなるのだろうか。空家の対処も前に進まず困った事態に陥ってしまう。法律は、このような場合にはフェーズが変わることを認めている。すなわち双方が平等という原則を崩し、市町村が優位な地位に立つことを認めている。空家の所有者の思いは重要ではなくなり、市町村長の意思が重要になり、その意思を貫くことを認めている。法第22条第3項が定める「勧告に係る措置の命令」という方法である。「命令」という言葉は、市町村長が所有者に対して何かするよう指図をすることを意味するのではなく、空家の取壊しなど一定の行為をするよう義務付けてしまうことを意味する。所有者はその義務を果たさなければならない状況に置かれる。それでもなお、義務を果たさずにいると、法第22条第9項の「代執行」という方法が用意されている。これは、所有者に代わって市町村自らまたは業者に依頼して、空家などを取壊してしまうという方法であり、取壊しに要した費用を所有者に請求するという仕組みである。

 行政法では、このような活動を「公権力の行使」と呼んでいる。自分の意思に反しても、行政機関が強く振舞うことを認めているのだ。このような振舞いは、人々の安全を確保するために必要なものといえるが、私たちの生活を破壊してしまう危険性も内包している。行政法を学ぶときには、この危険性を意識しておくことも大事なことである。


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